和歌山地方裁判所 昭和63年(行ウ)1号 判決 1991年9月11日
原告
関佳哉
右訴訟代理人弁護士
豊田泰史
同
冨山信彦
被告
旅田卓宗
右訴訟代理人弁護士
福田泰明
同
山本光彌
主文
一 本件訴えのうち、拡張された請求の部分を却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
(請求の拡張前の請求)
被告は、和歌山市に対し、一八〇万円を支払え。
(請求の拡張後の請求)
被告は、和歌山市に対し、九一三〇万四五〇〇円を支払え。
第二事案の概要
一本件は、和歌山市住民(原告)が、和歌山市長が違法に任用した職員に給与を支給して和歌山市に損害を与えたと主張して、右市長個人(被告)に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号により、和歌山市に代位して損害賠償を請求した事案である。
原告は、請求の拡張前において、定数超過職員中、別紙二「職員一覧表」1ないし18番記載の一八名に対し支給された昭和六三年一月分の給与のうち、一職員につき一〇万円で計算した金額の合計一八〇万円を損害と主張して、請求の拡張後において、同表記載の一九名に対し、昭和六二年六月から平成二年四月まで支給された三五か月分の給与を一か月の各職員の給与を行政職給料表二級四号給(昭和六二年四月一日適用)の一三万七三〇〇円(<証拠>)で計算した金額の合計九一三〇万四五〇〇円を損害と主張して、その賠償を代位請求する。
二(争いのない事実)
1 原告は和歌山市の住民であり、被告は和歌山市長(昭和六一年七月一七日市長就任)である。
2 和歌山市職員の定数に関する条例によれば、市長の事務部局の定数は別紙一「昭和61年度・62年度職員数状況表、市長の事務部局・定数欄」記載のとおりであるところ、被告は、右条例に違反して、同「実数」欄記載のとおりの職員を任用して、同「差」欄記載のとおりの職員の定数超過の状態を生じさせ、右定数超過職員に給与を支給した。
3 原告は、昭和六三年三月一五日、和歌山市監査委員に対し、被告の右給与支給につき住民監査請求をしたところ(<証拠>)、同監査委員は、同年五月二日、原告に対し損害賠償の措置はしない旨通知した(<証拠>)。
三本案前の争点
1 被告は、次のとおり本案前の主張をし、本訴は不適法で却下を免れないと主張する。
(一) 本件訴えの前提となる監査請求は、職員全体の定数超過と市長部局の定数超過人数を指摘するのみで、他の事項から識別、特定できる程度に支給支出の対象・時期・金額及び損害額についての具体的摘示を欠く包括的網羅的請求であって、財務会計上の行為等について個別的具体的な摘示を求める法の趣旨に適合せず、不適法である。
(二) 原告は監査請求において事実摘示をしなかった公職選挙法違反を原因とする請求をしており、これは監査請求前置主義に反する。
また、原告が監査請求をした日の翌日の昭和六三年三月一六日以降の給与支出については監査を経ておらず、右給与支出についての損害賠償請求は、監査請求前置主義に反する。
(三) 本件監査請求の監査の結果の通知がなされたのは昭和六三年五月二日であるところ、公職選挙法違反を理由とする損害賠償請求は、平成元年九月六日の口頭弁論期日に初めて主張されたものであり、また、原告の請求の拡張は、平成二年五月二三日にその旨の書面が裁判所に提出されてなされたものであって、いずれも、地方自治法二四二条の二第二項一号の出訴期間を徒過した不適法なものである。
2 これに対し、原告は次のとおり反論する。
(一) 原告は、監査請求書において和歌山市職員の違法採用につき、
(1) 職員定数条例違反の定数超過採用
(2) 被告の選挙運動員の無試験採用等六項目にわたり具体的に職員採用の違法事実を摘示し、監査委員に当該違法事実の監査を求めるとともに、違法状態の是正及び損害補填のための必要な措置を求めたものであって、本件訴訟の前提として適法な監査請求をしている。
監査請求後の給与支払については、監査により必要な措置が講じられれば当然にその支出には至らなかったものであり、この点の原告の請求は監査請求前置に反しない。
(二) 本件訴訟は、和歌山市職員採用の違法性(任用無効)を前提とする損害賠償請求であり、これは昭和六三年五月三〇日に適法に訴えが提起されており、また、公職選挙法違反の違法事由は訴状で主張していることであって、しかも違法事由の主張時期は出訴期間とは無関係の問題である。したがって、被告の出訴期間不遵守の主張は失当である。
四本案の争点は、定数超過職員に対する給与支給により、和歌山市に損害が生じたか否かである。
1 原告の主張
別紙二「職員一覧表」記載の一九名の和歌山市職員採用については、定数超過の違法があるだけではなく、昭和六一年六月二二日の和歌山市長選挙における被告の選挙運動員に被告が私的に報いるため、和歌山市に新規に職員を採用するだけの行政需要がないのに、裏口採用方式でなされたものであり(一旦臨時職員として採用し、その後無試験で現業部門に選考採用する形をとり、その後短期間のうちに一般事務職に配置換えをする。)、これは公職選挙法二二一条(買収及び利害誘導罪)に該当する重大かつ明白な違法行為で、その任用自体が無効となる。
無効な任用行為により採用された職員への給与支出は、和歌山市にとり不必要なものであって、和歌山市には支払給与分の損害が発生した。
また、これらの者の採用は被告の個人的需要を賄うためになされたもので、和歌山市に対する労務の提供があったとはいえないし、和歌山市に対する有用な労務の提供はなかった。
2 被告の主張
普通地方公共団体の長が条例で定められた定数を超えて職員を任命し、また、その任用が競争試験又は選考の方法によらないで行われたとしても、その任命行為は法律上当然に無効とはいえず、地方公共団体と当該職員との間には有効な雇用関係が成立している。したがって、本件において仮に競争試験を経ない職員があったとしても、和歌山市との間には有効な雇用関係が成立しており、この労務提供の対価として給与を支払うことは当然のことで、違法な給与支出に該当しない。
また、前市長在職中の定数超過採用者及び被告が市長に就任してからの採用者は、いずれも業務に精励しており、労務を提供していたのであるから、和歌山市に損害は発生していない。
更に、和歌山市においては、昭和六一年当時、一か月平均約八〇人程度のアルバイトを雇用しており、また、同年八月一一日実施の各部局からの職員の増員要求は全部局で四〇四人にも達していたので、行政需要に対処するための人員が必要であったことは明らかで、無用な労務提供とはいえない。
なお、昭和六三年三月八日条例第二号により、和歌山市職員定数条例が改正され、市長事務部局定員が二七〇四名となり、同日施行された結果、定数超過は解消し、同日以降の公金支出は定数条例に違反しない。
第三本案前の争点に対する判断
一監査請求の特定について
1 地方自治法二四二条一項の住民監査請求においては、対象とする財務会計上の行為又は怠る事実(以下、財務会計上の行為又は怠る事実を「財務会計上の行為等」という。)を、他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要し、また、当該財務会計上の行為等が複数である場合には、当該財務会計上の行為等の性質、目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものというべきである(最判平成二年六月五日・民集四四巻四号七一九頁)。
2 これを本件についてみると、原告の監査請求の請求内容は、大要、以下の(一)ないし(四)のとおりである(<証拠>)。
(一) 和歌山市職員定数条例に基づく市長の事務部局の定数は、昭和六三年二月一日現在二六一三人であるのに、実人員において九七人、他の六部局を含めた総定数四一九一人からみても五五人が定数超過となり、条例に違反するが、超過となった職員の採用方法、配属先、氏名、身分及びこのような違法状態を招いた経過と内容につき監査を求める。
(二) 定数超過職員に支払った給与の財源について監査を求める。
(1) 昭和六一年四月一日以降同六三年二月一日までの超過職員は延べ一二九一人と考えられるが、実人員は何人か、また、これらの職員に支給した給与額についての監査と報告を求める。
(2) 定数超過職員に支払った給与は、不正支出であり、和歌山市に損害を与えたことになるので、和歌山市長は速やかにその補填をするとともに違法行為の防止措置を講じるよう求める。
(3) 昭和六二年三月、定例市議会に提出された当初予算説明書の人件費は職員実数四二九二人分を計上しているのに、同説明書中に記載の人員は四二〇四人と八八人少なくなっている事実について監査と報告を求める。
(三) 定数超過職員中に選挙管理委員会に報告されている被告選挙事務所の運動員一九名が無試験で採用されていると聞くが、その事実の有無、また、この採用された職員が、地方公務員として有資格者であり、適格者であるか、その住所、氏名、年齢、配属先及びその後の身分の扱い等につき監査を求める。
(四) 市議会議員が地位利用して子息を市職員として選考採用させたと言われているが、その事実につき監査を求める。
3 ところで、地方自治法二四二条一項の住民監査請求は、財務会計上の違法若しくは不当な行為並びに怠る事実につき、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によって当該普通地方公共団体の被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを内容として請求すべきであるので、監査委員に単に事実の調査、報告を求める請求は許されないと解される。
また、住民監査請求の対象となる行為又は怠る事実は、同条項に規定する財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものに限られると解される。
この観点から、本件監査請求をみると、前記(一)、(二)の(1)、(3)、(三)、(四)は、それ自体、単に事実の調査、報告を求める請求であって、地方自治法二四二条一項に規定する監査請求の範疇に当てはまるものではなく、また、(三)、(四)の指摘する職員の採用行為それ自体は財務会計上の行為ではないので、結局、本件監査請求は、和歌山市職員定数条例の定める定数を超過する職員に対する給与支出を、違法な財務会計上の行為たる公金の支出として、和歌山市長にその損害の補填と違法行為の防止措置を求めた請求(前記(二)の(2))と解する限度で、監査請求の内容及び対象としては適法である。
4 そこで、本件監査請求の特定性につき検討すると、右のとおり本件監査請求においては、定数超過職員に対し給与を支給した行為が監査請求の対象となるので、複数人に対する複数回の給与の支給行為が、したがって、複数の財務会計上の行為が監査請求の対象となる場合といえるが、個々の定数超過職員に対する個々の給与支出ごとに違法性、不当性を判断しなければならない性質のものではなく、全体としての定数超過職員に対する給与支出行為を一体と見て、その違法性、不当性を判断するのが相当であるから、監査請求において、個々の定数超過職員に対する個々の給与支出ごとに特定認識できるように個別的、具体的に摘示されることまでは要せず、右一体としての定数超過職員に対する給与支出行為が他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示されれば足りると解される。
本件監査請求においては、前記のとおり、定数超過職員に対する給与支出が監査請求の対象とされているが、これは、定数超過の状態であった時期に定数超過職員に対してなされた給与の支出を監査請求の対象としていると理解できるので、原告において、定数超過の状態があった具体的な時期、具体的な定数超過人員まで摘示しなくとも、自ずとその対象が特定されることになるので、本件監査請求において、右一体としての定数超過職員に対する給与支出行為の摘示は、特定を欠くものではない。
したがって、本件監査請求は、定数超過の状態があった時期に定数超過職員に対してなされた給与の支出が対象とされていると解する限りで特定を欠くものではない。
二監査請求前置について
地方自治法二四二条の二第一項は住民訴訟について監査請求前置を規定し、住民訴訟の対象とした財務会計上の行為等と住民監査請求の対象としたそれとの間に同一性を要求するが、右同一性は、必ずしも厳密に同一である場合だけに限らず、住民訴訟の対象となる行為、事実には、住民監査請求の対象とした財務会計上の行為等から派生し、又はこれを前提として後続することが予測される行為、事実、又は住民監査請求で必要な措置が講ぜられれば至らなかったであろう行為、事実も含まれると解される。
これを本件についてみると、本件監査請求の対象となった行為は、前記のとおり、定数超過があった時期の定数超過職員に対する給与の支出であり、これは結局、定数超過職員に対する昭和六一年七月分から同六三年三月分まで(前記第二、二、2)の給与の支出ということになるので、請求の拡張後の請求のうち、別紙二「職員一覧表」記載の一九名の者に対する同六三年四月分から平成二年四月分までの給与の支出について損害賠償を求める部分は、厳密には監査請求を経た部分と同一ではない。
また、本件監査請求前の昭和六三年三月八日、和歌山市職員定数条例が改正され、定数過員の状態にあった市長の事務部局の定数を実数より多くすることにより、定数超過状態は解消され(<証拠>、弁論の全趣旨)、また、仮に、本件監査請求において、必要な措置として、定数を超過する人員を罷免する措置がとられたとしても、罷免の対象となる人員に必ずしも前記一九名の者が該当したとは限らないので、住民監査請求で必要な措置が講ぜられれば、右一九名の者に対する昭和六三年四月分以降の給与の支出に至らなかったという関係はない(この点、定数超過の状態が監査請求の後にも継続している場合とは異なる。)。
したがって、請求の拡張後の請求のうち、前記一九名の者に対する昭和六三年四月分から平成二年四月分までの給与の支出について損害賠償を求める部分は、監査請求を経たものではないので、その部分に係る訴えは不適法である。
三出訴期間遵守について
原告は、平成二年五月二三日に請求を拡張する旨の書面を当裁判所に提出し、請求の拡張をしているが、これは、本件監査請求の監査結果の通知があった昭和六三年五月二日(前記第二、二、3)から地方自治法二四二条の二第二項一号の所定の三〇日を経過した後になされたものであるところ、請求の拡張も訴えの変更の一種であり、拡張後の新請求は新たな訴えの提起にほかならないから、右訴えにつき出訴期間の制限がある場合には、右出訴期間遵守の有無は、変更前後の請求の間に訴訟物の同一性が認められるとき、又は両者の間に存する関係から、変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときを除き、右訴えの変更により請求が拡張された時を基準としてこれを決しなければならない(最判昭和五八年九月八日・集民一三九号四五七頁)。
本件において、請求の拡張により拡張された請求の部分は、拡張前の請求と訴訟物が同一でないことは明白である。また、本件訴え提起の時(昭和六三年五月三〇日)までに支給されていた給与分を損害として請求する部分については、原告においてその時点で請求することができたのに、特に別紙二「職員一覧表」1ないし18番記載の一八名の昭和六三年一月分の給与(一人につき一〇万円で計算した額)に限って請求したものであり、また、定数超過が解消された後の昭和六三年四月分以降になされた給与の支出を損害として請求する分は、前記のとおり監査請求を経たものではなく、監査請求を経た、定数超過状態であった時期の給与の支出につき損害賠償を請求する請求拡張前の請求とは性質が異なる。結局、請求拡張により拡張された請求の部分と請求拡張前の請求とでは、実質的にみても訴訟物が同一ではなく、当初の訴え提起の時に、右拡張された請求部分も請求がなされていたとみることはできないので、本件訴え提起の時に右拡張された請求部分についての訴えの提起があったと解すべき特段の事情はない。
したがって、拡張された請求部分に係る訴えは、地方自治法二四二条の二第二項一号の出訴期間を経過した後になされた不適法なものとして却下を免れない。
四なお、被告は、原告の公職選挙法違反の主張が、監査請求前置に反し、また、地方自治法二四二条の二第二項一号の出訴期間を徒過したもので許されない旨主張するが、住民訴訟は監査請求の対象とした違法な行為又は怠る事実についてこれを提起すべきものとされているのであって、当該行為または怠る事実について監査請求を経た以上、訴訟において監査請求の理由として主張した事由以外の違法事由を主張することは何ら禁止されていないものと解せられる(最判昭和六二年二月二〇日・民集四一巻一号一二二頁)から、原告が監査請求の理由として主張しなかった公職選挙法違反の事由を、監査請求を経て、出訴期間を遵守した請求の拡張前の請求部分についての違法事由として主張すること自体は、監査請求前置に反するものではないし、右の主張の時期については、地方自治法二四二条の二第二項一号の出訴期間の制限を受けるものではない。
五したがって、本件訴えのうち、請求の拡張により拡張された請求部分は、地方自治法二四二条の二第二項一号の出訴期間を遵守したものではなく不適法である(そのうち、前記一九名の者に対する昭和六三年四月分から平成二年四月分までの給与の支出について損害賠償を求める部分は、監査請求を経ていない点においても不適法である)から却下を免れず、請求の拡張前の請求部分は適法であるので、この部分につき本案の判断を行う。
第四拡張前の請求についての本案の争点に対する判断
一地方自治法二四二条の二第一項四号に定める普通地方公共団体に代位して住民が行う損害賠償請求は、普通地方公共団体が被る財産上の損害の填補を目的とするものであり、違法な財務会計上の行為等が存しても、客観的な財産上の損害が生じない限り、同条項による請求は許されないと解すべきである。したがって、違法な財務会計上の行為等により、普通地方公共団体が利益を得ている場合に、右損害賠償請求が許されるのは、損益相殺の要件を満たす限りで右利益を控除した後の損害についてのみであると解される。
二これを本件についてみるに、定数超過職員も和歌山市の職員として採用され、和歌山市の事務に従事して、和歌山市に労務を提供し、和歌山市は右労務提供の対価として定数超過職員に給与を支給した(<証拠>、弁論の全趣旨)ので、和歌山市が受けた右労務提供による利益と右給与支給との間には、直接の因果関係があり、損益相殺を行うのが相当であるから、損害から右労務提供により和歌山市が得た利益を控除すべきである。
三そこで、右労務提供により和歌山市が受けた利益につき検討するに、普通地方公共団体の職員に給与の支給がなされた場合、労務提供の対価として支給される給与の性質上、右職員から、支給された給与に金銭的に見合う価値のものと評価される労務の提供が右普通地方公共団体に対してなされたものと推認するのが相当である。
本件においても、前記のとおり定数超過職員は労務提供の対価として給与の支給を受けているので、右給与の性質、労務提供と給与の対価性に照らし、和歌山市はこれらの者に支給した給与に見合う労務の提供を受けたと推認することができる。
また、提供された労務の有用性については、労務の提供及び行政需要の性質上、行政当局が職員採用の前提として行った提供される労務と行政需要の有無との関係についての判断を、一応、相当なものとみるのが妥当であるので、定数超過職員も和歌山市の職員として和歌山市の事務に従事した以上、これらの者が提供した労務が、和歌山市にとって明らかに無用なものでない限り、和歌山市の行政需要に応えた有用なものと認めるのが相当であるところ、本件において、定数超過職員の提供した労務が明らかに無用であることを窺わしめる事情はない。
したがって、定数超過職員も和歌山市の職員として勤務することにより、和歌山市は支給した給与と等価と評価される労務の提供を受けたものと認められるので、右労務提供による利益を損益相殺により控除すると、和歌山市には客観的な財産上の損害は生じなかったというべきである。
四原告は、別紙二「職員一覧表」1ないし18番記載の一八名の任用行為は公職選挙法に違反し、当然無効である旨主張するが、仮に、当然無効と判断される任用行為により職員が採用されたとしても、労務の提供とその対価として支給される給与の性質上、損益相殺をすべきであり、前記のとおり、和歌山市は、支給した給与と等価と評価される労務の提供を受けているので、原告の右主張は、被告の行為により客観的な財産的損害が生じなかったという前記の判断を左右するものではない。
五したがって、本件給与支出により和歌山市が損害を被ったことが認められない以上、地方自治法二四二条の二第一項四号により和歌山市に代位してなす本件損害賠償請求(請求の拡張前の部分)は理由がない。
(裁判長裁判官弘重一明 裁判官安藤裕子 裁判官阪本勝)
別紙一
昭和61年度職員数状況表
年月日
61
4.1
5.1
6.1
7.1
8.1
9.1
10.1
11.1
12.1
62
1.1
2.1
3.1
3.31
部局
市長の事務部局
定数
2631
2631
2631
2631
2631
2631
2631
2631
2631
2631
2631
2631
2631
実数
2577
2607
2606
2721
2726
2724
2720
2729
2729
2729
2729
2729
2694
差
△54
△24
△25
90
95
93
89
98
98
98
98
98
63
昭和61年度職員数状況表
年月日
61
4.1
5.1
6.1
7.1
8.1
9.1
10.1
11.1
12.1
62
1.1
2.1
3.1
3.8
3.31
部局
市長の事務部局
定数
2613
2613
2613
2613
2613
2613
2613
2613
2613
2613
2613
2613
2704
2704
実数
2674
2728
2727
2723
2723
2717
2714
2712
2712
2711
2710
2709
2703
2659
差
61
115
114
110
110
104
101
99
99
98
97
96
△1
△45
※定数過員部局のみ記載
別紙 二<省略>